嫌味のように言い放ち、胸で腕を組んで相手を見下ろす。
「ルクマ……」
その視線を、メリエムは真正面から受け止める。
「あなたはその跡継ぎよ」
「はんっ」
小バカにするように鼻で笑う。
「でも、他の連中は認めてないんだろう? そうだよな。僕が奴らの立場だったら、やっぱり反対するよ。今まで独身子無しだと思っていた長男に、いきなり隠し子発覚だなんてさ」
「本当は、もっと立場を確立してからあなた達を迎え入れるつもりだったのよ」
「そんなものは結果論さ」
「その結果論を、今ここであなたと論じるつもりはないわ」
そう言って、徐ろに立ち上がる。
「とにかく、新幹線の時間はもうすぐなの。はやく仕度をしてちょうだい」
「行かないって言ってるだろうっ!」
「ほんの二週間のことじゃない。どうしてわかってくれないのっ! 別にアメリカへ来いと言ってるわけじゃあないのよっ!」
さすがのメリエムも声を荒げる。
「仕事で二週間、東京に滞在している間だけ。その間だけのことじゃない。ミシュアルはあなたに会いたいのよっ!」
「会いたきゃこっちまで来ればいいだろう?」
「彼がどれほど忙しい人間か、それはあなただって分かってるはずだわっ!」
「忙しければ、僕や母さんなんてどうでもいいのかよっ!」
「今、その話を蒸し返さないでっ!」
思わず右手を振り回す。
「堂々巡りだわっ。時間の無駄よっ!」
「僕には重要な事だっ!」
「あなたはミシュアルのお陰で今の生活を送っているのよ。なんとしてもあなたを東京まで連れて行くわっ!」
「嫌だっ!」
「どうしてっ?」
「み――――っ!」
そこで唇を噛む。視線を落す表情に、メリエムは声を和らげた。
「ミツルね」
美鶴と離れたくない。
父親と会いたくないというのも一つの理由ではあるが、なんと言っても、美鶴と離れてしまうのが、今の瑠駆真にはどうしても耐えがたかった。
ただでさえ二人の関係は悪化してしまっている。今ここで離れてしまったら、さらに二人の間に深い溝ができてしまうようで、それが我慢ならなかった。
この間、夏期模試の為に登校したが、言葉を交わすことはできなかった。駅舎へ行ったが、会えなかった。
避けられているのだろうか?
その疑問を、必死に否定する。
いや、違うっ! 夏休みの間、駅舎の管理はあの霞流とかいう屋敷の人間がやっているのだ。管理の必要がないから、駅舎へは立ち寄らなかっただけだ。
そうだ。僕を避けているなんて。
二人の間に出現した亀裂――――
それを思うと、瑠駆真は焦りと憤りで気が狂ってしまいそうだった。
どうしてこんなことに――――っ!
双眸を閉じ、唇を噛み、全身を包む激しい苛立ちに拳を握り締めた。
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